あの家のこと②(放射線)

審判の日に言及した以上、福島第一にも触れないわけにはいきません。


調査チームを派遣した在日米軍が色めき立った驚愕の発見は、まだ続きます。


あの家を中核とした半径500mの異変は「揺れ」だけに止まりませんでした。
斉藤家の周辺だけ、異常なほど低レベルなんです。大気中の放射線量が……。


首都のベッドタウンでのパニックを危惧し、政府は隠蔽を続けてきましたが、
実は、同地区の北東部って、福島第一原発放射線が集中するホットスポットだったのですよ。
住民は、原発周辺の避難地域よりも高濃度な放射能に曝されていることすら知らされず、日々の生活を送っていたわけです。


でも何故か、斉藤家の500m圏内だけ数値が不自然なんです。
低すぎます。測定が不能なほどに。


米軍調査チームのリーダーを務めるハインライヒ博士(68才)が「放射線量と老婆の変容の相関関係」に着目し、ある大胆な仮説を立てました。
博士は、あの家の母親を研究対象にして36年、今や世界で最も彼女の謎に肉薄している科学者と呼ばれています。
しかし、そんな博士をもってしても、今回の仮説ばかりは余りに現実離れしすぎていたのでしょう。本国にも嘲笑をもって迎えられてしまいました。


自尊心の強いハインライヒ博士が、どれほどの屈辱に苛まれたかは、想像に難くありません。


もしかしたら精神のバランスが崩れたのかもしれません。


その姿を最後に確認したのは、監視施設を兼ねたラボから防護服も着用せず斉藤家に向かうハインライヒ博士の背中を記録した防犯カメラの映像でした。


そして二度と、博士が我々の元に戻ることはありませんでした。
しま三浦と同じように……。